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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)1042号 判決 1967年4月28日

上告人

伊東温泉開発株式発社

右代表者

太田清

外二名

右訴訟代理人

池内省三

浅野利平

被上告人

今禰キクヱ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人池内省三、同浅野利平の上告理由第一点について。

本件契約当時、上告会社の代表取締役について共同代表の定めがあり、その旨の登記がなされていたことは、原審の確定するところである。

ところで、原判決は、上告会社においては右契約当時、代表取締役について共同代表の定めはあるものの、その取扱いが放漫で、代表取締役中の一人だけで会社を代表して行動するのを放任していたこと、森茂以外の代表取締役らは原判示の経緯から会社に対する投資の回収に力を注ぐのみであり、会社の主たる事業場においてその事務に専念していたのは森茂だけであつて、同人がもつぱら同会社を代表して仕事をしていたこと等の認定事実関係から、森茂が前示共同代表の定めがあるにもかかわらず単独で代表取締役の名称を使つて行動することを上告会社として黙認していた事実が認定できるとし、他方、被上告人についても、森茂が単独で上告会社を代表しているものと信じ、本件契約の際にも、同人と契約を締結すれば上告会社と契約したことになると信じて契約したことが認められるとした上で、上告会社は森茂のした本件契約につきその責に任ずべき旨を判断しているのである。共同代表の定めがあり、かつ、その旨の登記がある場合において、代表取締役の一人が単独で行なつた法律行為についても、商法二六二条の規定の類推適用が可能であつて、前示のような原審認定の事実関係のもとでは、会社がその責に任ずべきものと解するのが相当である。原判決の右判断は、この理を示すものと解することができる。従つて、この点に理由不備および理由そごの違法はない。

また、商法一二条についての原審の所論判断は、単に同条の解釈を示したにすぎないものであつて、本件契約の際被上告人が前示共同代表の定めのあることについて具体的に悪意であつたことを認定判示しているわけではない。従つて、同法二六二条の類推適用につき、原判決が前記の判断を示したからといつて、その間に矛盾、そごはない。

従つて、論旨はすべて採用できない。

同第二点について。

商法二六二条の「会社ヲ代表スル権限ヲ有スルモノト認ムベキ名称ヲ附シタル取締役」には、右名称の使用を会社から黙認された取締役を含むものと解せられ、これを共同代表の定めある場合の代表権限単独行使の代表取締役に類推適用するにあたつては、前示原審認定のごとく、共同代表の定めあるにかかわらず当該代表取締役が単独で代表権限を行使できるものであると見られる外観をもつて代表取締役の名称を使用しているのに対し、これを会社が黙認していた場合をも含むものと解するのを相当とする。これと同じ見解によるものと解される原判決の所論判断は是認できる。

しかして、原判示の上告会社の右黙認は他の代表取締役全員による黙認である趣旨が原判文上窺われるところ、論旨は、右黙認では足りず他の代表取締役全員の委任または承認のあることを要する旨主張するものであつて採用できない。

なお、論旨は、森茂が単独で代表取締役の名称を使つて行動することを上告会社としても黙認していたとの原審認定について、右名称使用の黙認は事実行為についてなされたものであり、法律行為についてなされたものでないことを指摘して、原判決の法律解釈の誤りをいうが、外観を信頼した第三者を保護する商法二六二条の法旨に徴すれば、右を法律行為の場合に限定すべき理由はないから、所論は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

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